「親が亡くなって家や土地を相続したけど、名義はそのまま放置している…」
 こんな方、実は少なくありません。

 これまでは、相続した不動産の名義を変更する「相続登記」は、義務ではありませんでした。
 だから「面倒そうだから後回し」と放置されがちだったのです。

 ところが、令和6年(2024年)4月からルールが変わりました。
 相続登記が義務化され、一定の期間内に手続きをしないと「10万円以下の過料(罰金)」の対象になるのです。

 今回はこの「相続登記の義務化」について、
 「何が義務になったの?」
 「うちの場合、いつまでにやればいいの?」
 という疑問に、やさしく具体的にお答えしていきます。

1 相続登記とは?なぜ重要なの?

 まず、「相続登記」とは何か。
 これは、亡くなった方(被相続人)の不動産を、相続人の名義に変更する登記手続きのことです。

 例えば、父親が亡くなり、父親名義の土地を長男が相続する場合、
 法務局でその土地の名義を「父親 → 長男」に変更する必要があります。これが「相続登記」です。

 今まで、この手続きは義務ではありませんでした。
 つまり、やらなくても罰則はなかったのです。

 ですが、名義が亡くなった人のままだと、次のような問題が発生します。
・土地や家を売ることができない
・共有者が増えて話し合いがまとまらなくなる
・固定資産税の通知が宛先不明になる
・次世代の相続がさらに複雑になる

 こうした“負の連鎖”を防ぐため、今回の法改正が行われました。

2 いつから義務になる?期限はあるの?

 義務化のスタートは、令和6年(2024年)4月1日からです。
 それ以降に発生した相続については、相続を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。

 例えば、
 2024年6月に父親が亡くなった → 相続人は2027年6月までに登記をする必要があります。

 また、2024年より前に相続が発生していたケースも、対象になります。
 この場合、2024年4月1日から3年以内(=2027年3月31日まで)に登記をすればOKです。

 例えば、
 2005年に祖父が亡くなった → 放置していった土地の登記を2027年3月31日までに済ませる必要があります。

3 やらないとどうなる?過料(罰金)の仕組み

 相続登記を怠った場合、「10万円以下の過料(かりょう)」が科される可能性があります。
 この「過料」とは、いわゆる罰金のようなものですが、刑罰ではありません。

 とはいえ、行政処分として支払いを命じられるものなので、軽く見ているとあとで困ることになります。

 なお、
 「兄弟と話がまとまっていない」
 「相続人が全国に散らばっていて、連絡が取れない」
 といった事情がある場合でも、放置していると対象になります。

 そういった場合は、まず「相続人申告登記」という簡易的な制度を利用する方法もあります(後述します)。

4 手続きってどうするの?流れを簡単に解説

 「相続登記」の基本的な流れは、以下のとおりです。
 ①戸籍を集めて相続人を確定する
  →被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り、誰が相続人か調べます。

 ②遺産分割協議をする(遺言がない場合)
  →誰が何を相続するか、相続人全員で話し合って決めます。

 ③登記申請書類を作成する
  →法務局に提出するための書類を用意します。

 ④法務協に提出する
  →申請書と必要書類を持参または郵送で提出します。

  書類の不備があると差し戻しになることもあるので、専門家に依頼する人が多いです。
 (実際の登記申請は司法書士が行います。行政書士はその準備段階からの手続きを丁寧にサポートしていきます。)

5 新制度「相続人申告登記」とは?

 「遺産分割がまとまっていないけど、義務の期限だけは守りたい」という方のために、新しくできたのが「相続人申告登記」という制度です。

 これは、「私は相続人の一人です」とだけ申告する簡易的な登記です。
 これをすることで、とりあえず義務は果たしたことになるという制度です。

 相続人全員がこの申告を行えば、名義の変更自体は保留のままでも、罰則は免れます。

 ただし、あくまで「期限内に対応した」という扱いになるだけで、実際の名義変更(=不動産の売却や処分)はできません。
 そのため、将来的には正式な「相続登記」が必要になってきます。

6 誰がやるべき?複数の相続人がいる場合

 兄弟が多く、誰が「相続登記」の手続きをするか決まっていないケースもあるでしょう。
 原則として、相続人のうち一人が代表して手続きをすればOKです。

 ただし、遺産分割の内容によっては、全員の実印、印鑑証明書が必要になります。

 例えば、
 長男がすべて相続 → 他の兄弟の同意書(印鑑証明付き)が必要

 誰がどの財産を相続するのか、まずはしっかり話し合い、合意した内容を「遺産分割協議書」として文書化する必要があります。

7 今こそ、相続登記に向き合うタイミング

 これまで「面倒だから放置」で済んでいた相続登記。
 しかし、法律が変わった今、「やらなかった」では済まされない時代になりました。

 相続登記の義務化は、あなたの代で止めるか、次の世代に押し付けるかの分かれ道でもあります。

 まずは、
・名義が古くないか
・相続人の間で話し合いができる状況か
・手続きを進める意思があるか
 を確認し、必要に応じて行政書士など専門家にご相談ください。

 相続手続きは、放っておくとどんどん複雑になります。
 「今なら間に合う」うちに、行動してみませんか?

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行政書士下西照美事務所