「私たちには子供がいないけれど、主人にもしものことがあったら、私はこの家やお金を全部相続できるのかしら…?」

 60代、70代のご夫婦、特にお子さんがいないご家庭から、こうしたご相談をよくいただきます。

 長年連れ添ったご主人を見送ったあと、奥様がすべての財産を受け取れるとは限らない――
 そう聞いて、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

 今回は「子供のいない夫婦で夫が亡くなった場合の相続」について、行政書士の立場から分かりやすく解説します。

1 結論から言うと、すべて相続できるとは限りません

 まず押さえておいていただきたいのは、遺言がない場合、配偶者がすべてを相続できるとは限らないという点です。

 特に、夫に子供がいない場合、「親」や「兄弟姉妹」が相続人となる可能性があり、奥様が単独で相続するには制限があります。

 では、法律ではどうなっているのか。順を追ってみていきましょう。

2 法律上の相続順位とは?

 まず、「誰が相続人なるのか」は民法という法律で定められています。

 以下が基本的な相続順位です。
 第1順位:子供(直系卑属)
 第2順位:父母などの親(直系尊属)
 第3順位:兄弟姉妹

 子供がいない場合、第1順位はスキップされ、次の順位に移ります。

 例えば、ご主人が亡くなり、子供も親もすでに他界している場合、ご主人のご兄弟姉妹が相続人になります。

 つまり、配偶者と兄弟姉妹が一緒に相続する形になるのです。

3 それぞれの法定相続分は?

 民法では、法定相続人の間での取り分(法定相続分)も決められています。

 ご主人に子供がいない場合の配偶者の相続分は以下のとおりです。

区分配偶者直系尊属(親など)兄弟姉妹
配偶者と親が相続人2/31/3
配偶者と兄弟姉妹が相続人3/41/4

 つまり、遺言がない状態で夫が亡くなると、妻は最低でも全財産の4分の1を失う可能性があるということです。

 しかも、兄弟姉妹の人数が多い場合、それぞれに相続権が発生し、遺産分割協議(財産の分け方の話し合い)が必要になります。

 話し合いがまとまらなければ、預金も不動産も凍結されたままというケースも珍しくありません。

4 事例で見る「兄弟と話がつかず家の名義変更が進まない」

 例えばこんな事例があります。

 夫が亡くなり、妻は夫婦で暮らしていた家にそのまま住み続けていました。ところが、名義変更のためには、夫の兄弟3人との遺産分割協議が必要に。
 一人が遠方に住んでいてなかなか話がまとまらず、1年以上名義変更ができない状態に…。

 こうしたトラブルは、「子供がいない夫婦」に非常に多く見られます。

 つまり、「家族の仲が悪くないから大丈夫」では済まないのです。

5 遺言書があれば「すべて妻に相続」も可能に

 では、どうすれば防げるか?
 それが、「公正証書遺言」の作成です

 ご主人が元気なうちに、「すべての財産を妻に相続させる」と明記した公正証書遺言を残しておけば、兄弟姉妹がいても妻がすべての財産を受け取ることが可能です。

 公正証書遺言とは、公証役場で公証人が関与して作成する公式な遺言書のこと。

 法的に不備が生じにくく、確実に本人の意思を残せる方法として広く使われています。

6 遺言の内容と、遺留分についても注意が必要

 ただし、注意点もあります。
 それは「遺留分(いりゅうぶん)」という制度。

 遺留分とは、一定の相続人が最低限もらえる取り分のこと。
 ですが、兄弟姉妹にはこの遺留分が法律上認められていません。

 つまり、兄弟姉妹が相続人の場合に限っては、遺言で「全財産を配偶者に」としても問題はないということです。

7 子供のいないご夫婦こそ、早めの準備を

 今回のテーマのポイントをまとめます。

・遺言がないと、兄弟姉妹にも相続権がある
・配偶者が全財産を受け取れるとは限らない
・話し合いが長引くと、名義変更や預金の解約も滞る
・公正証書遺言があれば、妻への全額相続も可能
・兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言の効力が強い

 つまり、子供のいないご夫婦こそ「遺言」での備えが重要です。

 ご夫婦のどちらかが元気なうちに、しっかりとした意思表示をしておくことで、残される側の不安や負担を軽減できます。

8 お困りの時は、行政書士にご相談ください

 遺言書の内容をどうするか、どのように公正諸書を作るか、誰に相談すればよいのか――迷ったら、行政書士にお声がけください。

 私は「ご夫婦が安心して人生の後半を過ごせるように」をモットーに、遺言書作成支援や相続手続き、家族間の財産設計のお手伝いをしています。

 初回相談は無料で行っています。お気軽にお問い合わせください。

      ↓

行政書士下西照美事務所