「そろそろ法人化を考えようか。でも、資本金って最低いくら必要なんだろう?」
個人事業を続けてきた方にとって、会社設立に係るお金は大きな悩みです。
かつては「株式会社を作るには最低資本金1,000万円が必要」と言われていました。
しかし、これはもう過去の話。なんと「資本金1円」でも会社設立が可能です。
では本当に、1円で問題はないのでしょうか?
今回はその仕組みと、実際に1円で設立するリスクや注意点を、行政書士の視点から分かりやすく解説します。
1 資本金1円でも会社は作れる。でもそれだけでは「信用」は得られません
最初に結論からお伝えします。
・法律上、資本金1円でも株式会社、合同会社は設立可能
・ただし、「信用力」「融資審査」「取引先との関係」などでデメリットが出ることも
・将来の資金繰りや成長を考えるなら、事業に見合った資本金を設定すべき
つまり、「設立はできるけど、その後の経営を考えると慎重な判断が必要」ということです。
2 会社設立に必要な「資本金」って何?基礎から確認
【資本金の定義】
「資本金(しほんきん)」とは、会社が事業を始めるときに用意する元手のお金のことです。出資者(通常は設立者本人)が用意し、会社名義の口座に振り込む形で準備します。
会社は個人とは別人格(法人格)です。資本金は、会社という組織が最初に持つお財布の中身だと思ってください。
3 資本金の最低額は今いくら?
2006年5月の会社法改正により、株式会社も合同会社も、資本金1円から設立可能になりました。
それまでは、株式会社は1,000万円、有限会社は300万円が必要でしたが、ベンチャー支援や起業促進を目的に緩和されました。
【資本金の具体例:1円~1,000万円までどう違う?】
資本金額 | 実際の活用・印象 |
---|---|
1円〜10万円 | 最低限の会社設立のみ。信頼性に乏しく、融資はほぼ困難。 |
50万円〜100万円 | 小規模なサービス業など、自己資金で回せる業種向き。 |
300万円〜1,000万円 | 銀行融資や補助金申請時にも通りやすく、一定の信用力あり。 |
※もちろん、資本金が多ければよいという単純な話ではありません。あくまで「信頼性」と「初期の運転資金」としての目安です。
4 「1円会社」にはどんなリスクがある?
①信用されにくい
取引先や顧客からすると、「資本金1円?この会社、本当に大丈夫?」という印象を持たれてしまいます。
特に法人向けのビジネスでは、契約時に資本金を確認されることもあります。
②融資や補助金の審査で不利
日本政策金融公庫などの公的融資や、自治体の補助金申請では、一定以上の資本金があることが「実績」として判断される場合があります。
資本金が極端に少ないと、「計画性がない」「リスクが高い」と判断される恐れがあります。
③資金繰りに苦しむ
資本金はそのまま会社の運転資金になります。
広告費、仕入れ、人件費、家賃など、法人になると何かと支出が増えます。1円では、最初の1日すら持たないかもしれません。
5 では、いくらが妥当?業種別に考えてみましょう
実際の会社設立の現場では、資本金は100万円~300万円程度が一般的です。
以下、業種別に目安をあげてみます。
業種 | 資本金の目安 |
---|---|
ネットショップ・個人向けサービス | 30万円〜100万円 |
建設業・電気工事業 | 500万円〜1,000万円(※建設業許可では500万円以上が要件) |
飲食店 | 100万円〜300万円 |
コンサルティング・士業 | 50万円〜150万円 |
あくまで参考ですが、「最初の半年~1年の運転資金」や「必要設備費」などをもとに、現実的に設定しましょう。
6 よくある誤解:「出資=税金がかかる」は間違い
「資本金を大きくすると、その分税金が増えるのでは?」と心配する声もあります。
結論から言えば、法人住民税の均等割りには影響するものの、それ以外の税金(法人税など)には基本的に影響しません。
例えば、法人住民税の均等割りは以下のとおりです(都道府県や市町村によって異なりますが一例)。
・資本金1,000万円以下:年額7万円
・資本金1,000万円超:年額18万円以上
つまり、資本金1,000万円を超えない範囲であれば、税負担はほぼ変わらないと考えて大丈夫です。
7 資本金の増資はあとからでも可能!
「今は手元資金が少ないけど、将来的には資本金を増やしたい」と思う場合も安心してください。
資本金はあとから「増資(ぞうし)」という手続きをすれば、会社設立後でも増やすことができます。
ただし、定款変更や登記、税務署への届け出など手続きが必要なので、事前に行政書士など専門家に相談するのがお勧めです。
8 「1円会社」は作るれるけど、本気で事業をするなら慎重に
最後に、今回の内容を振り返ります。
・資本金1円で会社は設立できる(法律上は問題なし)
・でも信用力や資金繰りでのリスクがある
・融資、補助金、許認可など将来を見据えて、現実的な金額を設定しよう
法人化は、融資・補助金の申請、節税対策、信用アップなど多くのメリットがあります。
ただし、そのスタート地点である「資本金」は、安易に「最小でいいや」と考えるべきではありません。
あなたの事業に合った適正な金額を考え、しっかりと準備して法人化を進めましょう。
不安な点は、行政書士など専門家に相談するのが安心への近道です。
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