
「認知症になったら、誰が私のお金を管理するの?」
「後見人は自分で選べるの? それとも裁判所が決めるの?」
終活を考え始めると、こんな疑問が出てきます。 子供のいないご夫婦なら、「頼れる人がいない」という不安もあるでしょう。 障害のあるお子さんを持つ親御さんは、「自分がいなくなった後」が心配だと思います。
後見の制度には、「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。 大きな違いは、「誰が選ぶか」と「いつ準備するか」の2つです。 順番に見ていきましょう。
1 2つの制度は「準備する時期」が違う
任意後見は元気なうちに準備する制度です。 法定後見は判断力が落ちてから使う制度です。
「後見」とは、判断力が十分でない人に代わって、お金の管理や契約を支える仕組みのことです。
| 比べる点 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 準備する時期 | 元気なうち | 判断力が落ちてから |
| 後見人を選ぶ人 | 本人 | 家庭裁判所 |
| 任せる内容 | 本人が契約で決める | 法律で決まっている |
| 始まるとき | 任意後見監督人が選ばれたとき | 家庭裁判所が開始を決めたとき |
例えば、70歳で元気な夫が「80歳を過ぎたら甥に頼みたい」と考えたとします。 この場合は任意後見を使います。 一方、母がすでに認知症で、銀行の手続きができないなら、法定後見を使うことになります。
2 任意後見は「自分で選んだ人」に任せる契約
任意後見では、頼む人と任せる内容を自分で決められます。
任意後見は、本人と将来の後見人が結ぶ契約です。 契約は公正証書で作ることが法律で決まっています。 公正証書とは、公証役場で公証人が作る公文書のことです。
契約を結んだだけでは、まだ効力はありません。 判断力が落ちたあと、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだときに始まります。 任意後見監督人は、後見人の仕事をチェックする人です。
例えば、子供のいない夫婦が、それぞれ姪と任意後見契約を結んでおくとします。 夫が認知症になったら、姪が夫の預金管理や施設の契約をします。 費用は、契約するときの公証役場の分が2万円ほどです。
ただし、判断力が落ちてからでは契約できません。 任意後見は「元気なうち」しか選べない制度です。
3 法定後見は判断力に応じて3段階
法定後見では、判断力の程度によって「後見・保佐・補助」の3つに分かれます。 後見人を選ぶのは家庭裁判所です。
| 種類 | 本人の判断力 | 支える人 |
|---|---|---|
| 後見 | ほとんどない状態が続いている | 成年後見人 |
| 保佐 | 大きく落ちている | 保佐人 |
| 補助 | 落ちている | 補助人 |
成年後見人は、本人の財産に関するほぼすべての手続きを代わりにできます。 本人が結んだ契約も取り消せます(日用品の買い物などは除きます)。
申立てにかかる費用は、手数料800円、登記の手数料2,600円、郵便切手代です。 判断力を調べる「鑑定」が必要になると、別に費用がかかります。 2025年に鑑定をした事件では、約44%が5万円以下でした(最高裁判所「成年後見関係事件の概況」)。
4 法定後見では「家族が選ばれる」とは限らない
法定後見では、家族を候補者にしても、その人が選ばれるとは限りません。
2025年の統計では、親族が後見人に選ばれたのは全体の約16%でした。 残りの約84%は、司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家です。 もっとも、申立書に親族を候補者として書いていた事件は、約20%にとどまります。
家庭裁判所は、本人の財産の内容や必要な支援を見て、ふさわしい人を選びます。 「長男を後見人に」と希望しても、専門家が選ばれることがあります。
希望どおりにならなかったからといって、申立てを自由に取り下げることもできません。 取り下げるには、家庭裁判所の許可が必要です。
ここが、任意後見との大きな違いです。
| 比べる点 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 家族を後見人にできるか | 契約すれば確実 | 裁判所しだい |
| 報酬 | 契約で決める(無報酬も可) | 裁判所が決める |
5 ご家族の状況別に見る「選び方」
どちらを選ぶかは、今の判断力と家族の状況で決まります。
| 状況 | 向いている制度 |
|---|---|
| 本人が元気で、頼みたい人がいる | 任意後見 |
| すでに判断力が落ちている | 法定後見 |
| 子供のいない夫婦 | 任意後見(夫婦の「共倒れ」に備えて甥・姪や専門家も検討) |
| 障害のある未成年の子がいる | 親が子に代わって任意後見契約を結ぶことも可能(効力は成人後) |
| 身寄りがいない | 任意後見、または市区町村長による法定後見の申立て |
身寄りがない場合は、市区町村長が申立てをすることもあります。 2025年は1万139件で、全体の約24%でした(成年後見関係事件の概況)。
障害のあるお子さんの場合、親が「将来の後見人」を決めておけるのが任意後見の強みです。 ただし手続きが少し複雑なので、早めに専門家へ相談しましょう。
6 法改正で、法定後見の仕組みが変わります
2026年6月24日に、成年後見制度を見直す改正法が公布されました。 施行は公布から2年6か月以内です。
主な変更点は次のとおりです。 法定後見の「後見・保佐」がなくなり、「補助」にまとめられます。 本人に必要なことだけを支援する仕組みにするためです。 また、補助が始まっても、任意後見契約を続けられるようになります。
今は、任意後見を利用している人は2,833人です(成年後見関係事件の概況)。 成年後見制度の利用者全体の約1%にすぎません。 自分で選べる仕組みがあることを、もっと多くの方に知ってほしいと思います。
まとめ
任意後見は、元気なうちに自分で選ぶ制度です。 法定後見は、判断力が落ちたあとに家庭裁判所が選ぶ制度です。 「この人に頼みたい」という希望があるなら、準備は早いほど安心です。
当事務所では、任意後見契約の内容づくりから公証役場との打ち合わせまでサポートしています。 どちらの制度が合っているか迷ったら、お気軽にご相談ください。
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