
「任意後見の契約をしたから、これで安心」 そう思っていませんか?
実は、任意後見で支えてもらえるのは「生きている間」だけです。 亡くなった後の葬儀や支払いは、任意後見人の仕事に入りません。 財産を誰に残すかも、任意後見では決められません。
子供のいないご夫婦や、身寄りの少ない方は、ここが特に心配なところです。 この記事では、任意後見と一緒に準備しておきたい2つの書類を紹介します。
1 任意後見が支えるのは「生きている間」だけ
老後から亡くなった後までを1つの制度でまかなうことはできません。 時期ごとに、使う制度が変わります。
| 時期 | 困ること | 使う制度 |
|---|---|---|
| 判断力が落ちてから亡くなるまで | 預金の管理、施設の契約 | 任意後見契約 |
| 亡くなった直後 | 葬儀、病院代の支払い、役所への届出 | 死後事務委任契約 |
| 亡くなった後の財産 | 預金や自宅を誰に渡すか | 遺言書 |
例えば、一人暮らしの80歳の女性が、姪と任意後見契約を結んでいたとします。 女性が亡くなると、姪は任意後見人ではなくなります。 「葬儀をして、残ったお金は姪に」という希望は、別の書類で残しておく必要があります。
2 任意後見は「亡くなった時点」で終わります
任意後見人が手伝えるのは、本人が生きている間だけです。火葬や入院費の精算など、亡くなった後のことは、原則として任意後見人には頼めません。
任意後見契約は、本人が亡くなると終わります(民法653条)。
ここで気になるのが、法定後見との違いです。2016年10月の法改正で、成年後見人は家庭裁判所の許可があれば、火葬や埋葬の契約を結べるようになりました(民法873条の2)。でも、この決まりは任意後見人には当てはまりません。任意後見人の権限は、本人が亡くなった時点でなくなります。火葬の契約も、入院費の精算も、任意後見人としてはできません。
例えば、おひとりさまの80歳のAさん。甥と任意後見契約を結んでいました。Aさんが病院で亡くなっても、甥は「任意後見人」として火葬場を予約したり、入院費を精算したりはできないのです。
| 亡くなった後の手続き | 成年後見人(法定後見) | 任意後見人 | 死後事務委任の受任者 |
|---|---|---|---|
| 火葬・埋葬の契約 | 家庭裁判所の許可があればできる | できない | 契約で決めればできる |
| 葬儀の契約 | 許可の対象外 | できない | 契約で決めればできる |
| 支払期限が来た入院費などの支払い | できる(許可は不要) | できない | 契約で決めればできる |
この隙間を埋めるのが「死後事務委任契約」です。任意後見と同じ人を受任者にすれば、生前から死後まで、同じ人に切れ目なく任せられます。
3 亡くなった後の手続きは「死後事務委任契約」で頼む
死後事務委任契約を結んでおけば、亡くなった後の手続きを頼めます。
死後事務委任契約とは、亡くなった後の手続きを、信頼できる人に頼んでおく契約のことです。 頼む相手は、家族、知人、専門家、法人のどれでもかまいません。
頼める主な内容は次のとおりです。
- 病院代や施設の利用料の支払い
- 通夜・告別式・火葬・納骨
- 永代供養やお墓のこと
- 賃貸住宅の明け渡し
- 役所への届出
公正証書で作る場合の公証人手数料は、報酬の定めがなければ6,500円です(日本公証人連合会「公証人手数料」)。
例えば、子供のいない78歳の男性が、甥に死後事務を頼んでおくとします。 「葬儀は家族葬で、納骨は〇〇寺に」と書いておけば、甥も迷わずに済みます。
任意後見契約と同じ日に、死後事務委任契約も結ぶことができます。 受任者を同じ人にしておくと、生きている間から亡くなった後まで、手続きがスムーズにつながります。
4 財産の行き先は「遺言書」で決める
財産を誰に渡すかは、遺言書でしか決められません。 任意後見契約や死後事務委任契約では決められないのです。
子供のいないご夫婦は、特に注意が必要です。 遺言書がないと、配偶者のほかに、親や兄弟姉妹も相続人になります。
例えば、夫が4,000万円の財産を残して亡くなったとします。 夫の両親はすでに亡く、兄弟姉妹がいる場合、取り分は次のとおりです。
| 相続人 | 取り分 | 金額 |
|---|---|---|
| 妻 | 4分の3 | 3,000万円 |
| 夫の兄弟姉妹 | 4分の1 | 1,000万円 |
「全財産を妻に」という遺言書があれば、兄弟姉妹と話し合う必要はありません。 兄弟姉妹には、最低限の取り分(遺留分)がないからです。
公正証書遺言で、4,000万円を妻1人に残す場合の公証人手数料は4万6,000円です。 内訳は、財産額に応じた3万3,000円と、財産の総額が1億円以下の場合に加算される1万3,000円です。
5 3つをセットにすると「すき間」がなくなる
任意後見契約、死後事務委任契約、遺言書の3つをそろえれば、老後から亡くなった後までを切れ目なく準備できます。
| 状況 | おすすめの組み合わせ |
|---|---|
| 子供のいない夫婦 | 夫婦それぞれの遺言書+任意後見(夫婦の「共倒れ」に備えて甥・姪も検討) |
| おひとりさま | 3つすべて(死後事務委任契約が特に大切) |
| 障害のある子がいる親 | 子に財産を残す遺言書+自分の任意後見 |
障害のあるお子さんがいる場合は、親の財産をどう残すかが大切です。 お子さん自身の将来の支援も、あわせて考えておきましょう。
6 遺言のルールも変わりつつあります
2026年6月24日に、遺言制度を見直す改正法が公布されました。
主な変更点は次のとおりです。
- 自分で書く遺言書(自筆証書遺言)では、押印が不要になります。施行は公布から1年以内です。
- パソコンなどで作った遺言のデータを法務局に預ける、新しい方式の遺言(保管証書遺言)ができます。
保管証書遺言の施行日は、まだ決まっていません(施行は公布から3以内)。 今遺言書を作る場合は、今のルールに合わせる必要があります。
まとめ
任意後見だけでは、亡くなった後のことまでは守れません。 葬儀や支払いは死後事務委任契約で、財産の行き先は遺言書で準備します。 3つをそろえてはじめて、「もしも」のときに切れ目なく備えられます。
当事務所では、任意後見契約・死後事務委任契約・遺言書をまとめてご提案しています。 「何から始めればいい?」と迷ったら、お気軽にご相談ください。
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