
「任意後見って聞くけど、契約書は何から手をつければいいの?」
「頼みたいことはたくさんあるけれど、どう書けば伝わるの?」
こんなご相談をよくいただきます。
任意後見契約とは、元気なうちに「将来、判断力が落ちたときに手続きを頼む人」を自分で選んでおく契約です。 契約書づくりは、いきなり条文を書くことではありません。 まず「これからどう暮らしたいか」を整理することから始まります。
1 契約書づくりは5つのステップ
結論です。「暮らしの希望」を先に固めると、契約書はスムーズに作れます。
全体の流れは次のとおりです。
| ステップ | やること | 主に動く人 |
|---|---|---|
| Step1 | ライフプランを書く | 本人 |
| Step2 | 頼む人を決める | 本人・受任者 |
| Step3 | 代理権目録の案を作る | 本人・専門家 |
| Step4 | 公証役場で打ち合わせ | 本人・受任者・公証人 |
| Step5 | 公正証書を作り、登記される | 公証人 |
任意後見契約は、法律で「公正証書」で作ることが決められています。 公正証書とは、公証人という法律の専門家が作る公的な文書です。 本人の意思と判断力をしっかり確かめるためです。
2 ライフプランは「暮らしの希望メモ」
ライフプランは、任意後見人が迷ったときの道しるべになります。
ライフプランとは、判断力が落ちたあとも「こう暮らしたい」という希望をまとめたものです。 公正証書にする必要はありません。
書く内容の目安は、「お金」「住まい」「医療・介護」「楽しみ」の4つです。 決まっていない将来の希望や、趣味や好みも書けます。
例えば、こんな書き方です。
・娘との旅行が好きなので、認知症になっても、1回〇万円の範囲で旅行代金を出してほしい。
・施設に入るなら、自宅から30分以内で、庭のあるところを希望する。
細かな希望は、契約書の条文にはなじみません。 ライフプランに書いておけば、任意後見人が判断するときの手がかりになります。
3 希望を「代理権目録」に置き換える
ライフプランの希望を、法律の言葉に置き換えたものが代理権目録です。
代理権目録とは、「任意後見人に代わりにやってもらうこと」の一覧表です。 任意後見人は、代理権目録に書かれたことしかできません。
希望(ライフプラン)と代理権目録は、こんなふうにつながります。
| ライフプランの希望 | 代理権目録の項目(例) |
|---|---|
| 年金で暮らしたい | 定期的な収入の受け取り、費用の支払い |
| 施設に入りたい | 介護契約、施設の入退所契約 |
| 自宅は手放したくない | 財産の管理(ただし自宅の売却は除く) |
| 通帳を預けたい | 通帳や印鑑などの重要書類の保管 |
子どもがいないご夫婦なら、「遺産分割の協議」を入れておくと安心です。 配偶者が先に亡くなると、親や兄弟姉妹、甥・姪と遺産の話し合いをすることがあります。 そのとき判断力が落ちていると、自分では話し合いに参加できないからです。遺言書があれば話し合いがいらない場合もありますが、遺言書に書かれていない財産に備えておけます。
4 目録の様式は2種類
チェック式か文章式かを、公証人と相談して選びます。
代理権目録は、法務省令で決められた様式で作ります。
日本公証人連合会は、標準的な目録の例として17項目を紹介しています。 財産の管理、年金や公共料金、医療・介護の契約、税金の申告などが並びます。 まずはこの標準形を出発点にすると、抜けが少なくなります。
5 頼む範囲は、しぼることもできる
不要な項目を削ったり、上限をつけたりできます。
任意後見契約も契約の一つです。 本人と受任者の話し合いで、内容を自由に決められます。
日本公証人連合会では、次のような例が紹介されています。
不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項。ただし、居住用不動産の処分は含まない。
○○銀行○○支店の本人名義の普通預金口座から、月額合計○○万円を限度とする払戻し。
1つ目は「自宅だけは売らないで」という希望の書き方です。2つ目は「引き出せるのは月10万円まで」のように金額で上限をつける書き方です。
ただし、しぼりすぎると、いざというとき動けなくなります。 「安心」と「動きやすさ」のバランスが大切です。
6 契約書に添えるものと費用
報酬の決まりと財産の一覧も、あわせて準備しましょう。
報酬規定とは、任意後見人に払うお礼のルールです。 身内が引き受ける場合は無報酬にすることも多いです。 ただ、出納帳や報告書づくりは意外と大変です。 決まりがないと、専門家に相談する費用を本人の財産から払えない、という指摘もあります。
財産目録とは、契約したときの財産の一覧です。 あとで財産に不自然な増減がないか確かめるのに役立ちます。
公証役場でかかる主な費用は次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 公正証書の作成手数料 | 1契約 13,000円 |
| 法務局に納める収入印紙代 | 2,600円 |
| 登記をお願いする手数料 | 1,600円 |
| 写しの作成(紙) | 1枚 300円 |
ほかに、登記用の書類を送る書留郵便代がかかります。
7 作る前に知っておきたい3つのこと
判断力が落ちてからでは、項目を追加できません。
1つ目は、あとから項目を足せないことです。 代理権目録を変えるには、新たに公正証書で契約し直すのが一般的です。 判断力が落ちたあとは、それもできません。
2つ目は、契約が動き出す時期です。 家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだ時から効力が生じます。 任意後見監督とは、任意後見人の仕事ぶりをチェックする人です。
3つ目は、手術などの医療行為への同意です。 同意そのものは、代理権の対象にならないと考えられています。 任意後見人は、病院との契約や支払いを担う人と理解しておきましょう。
まとめ
任意後見契約書づくりは、「暮らしの希望」を書き出すことから始まります。 その希望を代理権目録に置き換え、公証役場で公正証書にします。
ライフプランは道しるべ、代理権目録は権限の範囲です。 この2つがそろうと、判断力が落ちたあとも「自分らしい暮らし」を支えてもらいやすくなります。
「わが家の希望は、どの項目に当てはまる?」と迷ったら、~お気軽にご相談ください。
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