遺留分とは?遺言書作成で必ず押さえる注意点

遺留分とは?遺言書作成で必ず押さえる注意点

 「せっかく遺言書を書いても、遺留分があるから意味がないんでしょう?」

 相談の場で、本当によく聞かれます。テレビや週刊誌で「遺留分」という言葉だけを知って、不安になってしまう方が多いのです。

 でも、結論から申し上げます。遺留分は、正しく理解すれば「遺言書を邪魔するもの」ではなく「設計に組み込むもの」です。 しかも、ご家族の構成によっては、遺留分をまったく気にしなくてよいケースもあります。

 順番に見ていきましょう。

1 遺留分とは?——「最低限の取り分」

 遺留分とは、一定の相続人について、亡くなった方の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のこと。裁判所はこう説明しています。生前の贈与や遺言によっても奪われません。

 ただし、遺留分を侵害する遺言や贈与は、それ自体が無効になるわけではありません。ここが大事なところです。遺留分を持つ人が「請求します」と言い出したときにはじめて、お金を払う義務が発生します。

 例えば、財産4,000万円。「全部を長男に」という遺言。長女の遺留分は1,000万円です。でも長女が黙っていれば、遺言どおり長男が全部受け取ります。遺留分は、使うかどうか本人が決める権利なのです。

2 誰に遺留分があって、誰にないのか

 兄弟姉妹には遺留分がありません。子供のいないご夫婦には、これが大きな武器になります。

 民法1042条は、遺留分を認める相手を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。

相続人遺留分
配偶者あり
子供(孫が代わる場合も)あり
父母・祖父母あり
兄弟姉妹なし
甥・姪なし

 甥や姪は、兄弟姉妹の代わりに相続人になります。でも、もとの兄弟姉妹に遺留分がないので、甥・姪にもありません。

 つまり——子供がおらず、ご両親も亡くなっているご夫婦の場合。「全財産を妻に相続させる」と遺言書に書けば、そのとおり実現します。兄弟姉妹や甥・姪から請求されることはありません。

 「うちは遺留分で揉めるかも」と心配されていた方、ここは安心してください。

3 割合はどれくらい?

 全体で2分の1。ただし父母だけが相続人なら3分の1です。

 遺留分は2段階で計算します。まず全体の枠(総体的遺留分)、次に一人ずつの取り分(個別的遺留分)です。

相続人全体の枠一人あたり
配偶者のみ1/2配偶者 1/2
配偶者と子1人1/2配偶者 1/4、子は1/4を人数で分ける
子2人のみ1/21/2を子の人数で分ける
配偶者と父母1/2配偶者 2/6、父母は1/6を分ける
父母のみ1/3父母などで1/3を分ける
配偶者と兄弟姉妹1/2配偶者 1/2、兄弟姉妹 なし

例えば、財産3,200万円、相続人は配偶者と子1人。それぞれの遺留分は800万円です。「全部を妻に」と書いた場合、お子さんは800万円を請求できます。逆にいえば、2,400万円までは自由に配分できるということです。

4 2019年の法改正で変わった2つのこと

 ここでの抑えどころは2つです。請求は「お金」になり、古い生前贈与は計算から外れるようになりました。

① 現物から金銭へ
 以前は「遺留分減殺請求」といって、不動産そのものの返還を求める仕組みでした。結果、自宅が共有名義になり、修繕も売却もできない——という揉め事が起きていました。

 2019年7月1日施行の改正で、これが遺留分侵害額請求に変わりました(民法1046条)。請求できるのはお金だけ。自宅を分割される心配がなくなったのです。

② 生前贈与の10年ルール
 遺留分を計算するとき、過去の生前贈与を財産に足し戻します。改正前は何十年前の贈与でも対象でした。今は相続開始前10年以内の贈与に限られます(民法1044条)。

 ただし注意点が2つ。贈与する側と受ける側の双方が「遺留分を害する」と知っていた場合は、10年を超えても対象になります。また、この10年ルールは2019年7月1日以降に始まった相続に適用されます。

5 遺言書作成で必ず押さえる4つの注意点

 遺留分は「避ける」のではなく「先に計算する」。これが実務の基本です。

① 遺留分を計算してから、配分を決める
 順番が逆の方が多いのです。まず財産をざっと洗い出し、誰にいくらの遺留分があるかを出す。そのうえで配分を決める。この順番だと、請求されても払える設計になります。

② 付言事項で「理由」を書く
 付言事項とは、遺言書に添える想いの部分です。法的な効力はありません。でも「なぜこの配分にしたか」が書かれていると、請求を思いとどまるケースは実際にあります。

③ 遺言執行者を指定する
 遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを進める人。指定しておけば、単独で名義変更や解約ができます。

④ 家族信託でも遺留分は消えません
 障害のあるお子さんのために、家族信託を使う方が増えています。「信託した財産は相続財産ではないから遺留分の対象外」——これは誤解です。実務上は対象になる傾向とされ、遺留分に配慮しない設計は、あとで信託そのものが揺らぎます。

 お子さんに障害があり、他にご兄弟もいるケース。他のご兄弟の遺留分を現金で用意しておくところまで設計するのが安全です。

6 請求する側には期限がある

 遺留分を請求できるのは1年間。しかも「言うだけ」では足りません。

 期限は2本立てです。

起算点期限
相続開始と遺留分侵害を知った時から1年
相続開始の時から(知らなくても)10年

 民法1048条の定めで、どちらか来た時点で権利は消えます。

 ここで見落としがちな点を1つ。家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、相手に対する意思表示になりません。裁判所自身がそう注意しています。別に内容証明郵便などで「請求します」と伝える必要があるのです。調停の申立費用は収入印紙1,200円。

 遺言書を作る側にとって、この期限は保険ではありません。1年間は請求されうる、という前提で現金を用意しておく——そう考えるのが安全です。

まとめ

 遺留分は、遺言書を無力にするものではありません。

 子供のいないご夫婦なら、兄弟姉妹に遺留分はない。お子さんがいるなら、遺留分の額を先に計算して、払える形にしておく。障害のあるお子さんのための信託なら、他のご兄弟の遺留分を現金で準備しておく。

 やるべきことは、ご家族の形によって変わります。

 まずは「わが家に遺留分を持つ人は誰か」を紙に書き出してみてください。そこから設計が始まります。ご自身のケースでどう組み立てるべきか迷われたら、お気軽にご相談ください。

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「行政書士下西照美事務所」

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下西照美

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