遺言執行者は本当に必要か?専門家が解説

遺言執行者は本当に必要か?専門家が解説

 「遺言執行者って、必要なんですか?」
 遺言書の案ができあがると、たいてい最後にこの質問が出ます。

 「書いておくと、費用がかかるんでしょう?」
 「家族がやればいいのでは?」
 「そもそも何をする人なの?」

 結論から言うと、法律上どうしても必要な場面は限られています。ただ、指定しておいたほうがいい家庭のほうが多いです。順に見ていきましょう。

1 遺言執行者は「実行する担当者」

 遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人のことです(裁判所の説明)。民法1012条1項は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています。

 遺言書は、書いただけでは何も動きません。銀行口座は凍結されたまま。不動産の名義も昔のまま。誰かが窓口へ行き、書類を集め、手続きをする必要があります。その「誰か」を、あらかじめ指名しておく制度です。

 なれない人は、未成年者と破産者だけ(民法1009条)。それ以外なら、相続人本人でも、専門家でも、法人でも指定できます。

2 2019年の法改正で、立場が強くなった

 ここは押さえておきたい背景です。

 平成30年の民法改正(令和元年7月1日施行)で、遺言執行者の権限が整理されました。改正前は「相続人の代理人とみなす」とされていましたが、改正後は遺言者の意思を実現する独立した立場になりました。

 具体的に変わった点を挙げます。

 遺贈の履行は、遺言執行者だけができるようになりました(1012条2項)。「相続させる」と書かれた不動産の登記も、遺言執行者が単独で申請できます(1014条2項)。預貯金の払戻しや解約の権限も明記されました(1014条3項)。金融機関ごとに対応がバラバラだった問題が、これで解消に向かいました。

 一方で、義務も増えています。任務を始めたら遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(1007条2項)。内緒で進めることはできません。

3 「必ず必要」なのは、この2つ

 法律上、遺言執行者がいないと実現できない内容があります。

 一つは、遺言で子を認知する場合(民法781条2項)。認知には戸籍の届出が要るため、誰かが届け出なければ効力が形になりません。

 もう一つは、遺言で推定相続人を廃除する場合(893条)や、廃除を取り消す場合(894条2項)。家庭裁判所に申立てをする人が必要だからです。「廃除」とは、虐待などを理由に特定の相続人から相続権を奪う手続きのことです。

 この2つ以外は、遺言執行者がいなくても遺言は有効です。ただ、その場合は銀行や法務局の手続きを、残されたご家族が自分たちで進めることになります。人数が多いほど、負担は重くなります。

4 指定あり・なしで、何が変わるか

項目遺言執行者ありなし
手続きを進める人執行者が単独で動ける相続人が全員で協力
相続人が非協力なとき執行者が進められる止まりやすい
遺贈
(相続人以外へ渡す)
執行者のみで履行相続人全員の関与が必要
相続人が勝手に処分したら無効(1013条2項。ただし善意の第三者には対抗できない)防ぎにくい

 いちばん効くのは3行目と4行目です。相続人の1人が反対しているだけで手続きが止まる、という事態を避けられます。

5 ご家庭の事情で考える

 子供のいないご夫婦。相続人が兄弟姉妹や甥・姪になり、人数が増えがちです。全員から署名と印鑑をもらう手間を、遺言執行者がいれば省けます。

 障害のあるお子さんがいる方。お子さんご本人が銀行や法務局で手続きをするのは負担が大きい場面があります。遺言執行者を決めておけば、その負担を引き受けてもらえます。

 相続人以外の方に遺したい場合。内縁のパートナーや施設への「遺贈」は、遺言執行者がいればその方だけで手続きできます(民法1012条2項)。指定がないと、渡す側として相続人全員の協力が必要になります。

6 指定しないと、後から裁判所へ

 指定がないまま亡くなった場合でも、道はあります。利害関係人(相続人、債権者、遺贈を受けた人など)が家庭裁判所に選任を申し立てられます。

 申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所。費用は遺言書1通につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手です(郵便料は裁判所ごとに異なります)。

 ただし、必要書類は遺言者の死亡の記載のある戸籍、候補者の住民票、遺言書の写しなど。申立てをするのは、残されたご家族です。 800円という金額よりも、その手間と時間のほうが重くのしかかります。

7 誰に頼む? 費用はどのくらい?

 相続人の1人を指定して無報酬、という形もあり得ます。小規模で争いがない場合には現実的です。ただし責任と手間は残ります。

 専門家に頼む場合、ひとつの目安になるのが(旧)日本弁護士連合会の報酬基準です。遺言執行の手数料を、こう定めていました。

経済的な利益の額手数料
300万円以下30万円
300万円超〜3,000万円以下2%+24万円
3,000万円超〜3億円以下1%+54万円
3億円超0.5%+204万円

 遺産3,000万円なら84万円、5,000万円なら104万円という計算です。裁判手続きが必要になれば、別途費用がかかるとされていました。

 この基準は2004年4月1日に廃止され、現在、弁護士報酬は各事務所が自由に定めています。司法書士や行政書士も同様です。それでも旧基準を参考に料金表をつくっている事務所は多く、金額感をつかむ手がかりになっています。

 なお、報酬は遺言書の中で定めることもできます。決めていない場合は、遺言執行者と相続人の協議、または家庭裁判所が定めます。

まとめ

 遺言執行者が必須なのは認知と廃除の2つだけ。でも、相続人が多い、遠方に散らばっている、関係がぎくしゃくしている、不動産がある、そういう家庭では、指定しておく価値が大きくなります。

 遺言書は「意思を書いた紙」。遺言執行者は「その紙を動かす人」。両方そろって、はじめて機能します。

 ご家庭にとって必要かどうか、一緒に整理できます。お気軽にご相談ください。

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「行政書士下西照美事務所」

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下西照美

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