相続人に行方不明者がいる場合の遺産分割の対策

相続人に行方不明者がいる場合の遺産分割の対策

 「兄と20年、連絡が取れていません」
 相続のご相談で、意外とよくお聞きする話です。

 「父の遺産を分けたいのに、弟がどこにいるか分からない」
 「勝手に進めてしまってもいいの?」
 「何年待てば、いないものとして扱えますか?」

 警察庁の統計では、令和6年(2024年)に受理された行方不明者届は8万2,563人。決して珍しい話ではありません。

 結論を先にお伝えします。勝手に進めることはできません。でも、手続きは用意されています。 順に見ていきましょう。

1 なぜ、1人欠けると止まるのか

 遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を決める話し合いのことです。ポイントは「全員」。1人でも参加していなければ、その協議は無効になります。

 つまり、行方不明の方が1人いるだけで、預金の解約も、不動産の名義変更も止まります。

 ここに時間の制約も加わります。2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を取得したと知った日から3年以内の申請が必要になりました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です。「連絡がつかないから」という事情は考慮されうるとされていますが、放置していい理由にはなりません。

2 まずは探す。戸籍の附票から

 いきなり裁判所ではありません。最初にやるのは、住所の調査です。

 使うのは「戸籍の附票」。その戸籍に入っていた間の住所の移り変わりが記録された書類です。本籍地の役所で取れます。

 音信不通でも、住民票を移していれば現住所が分かります。手紙を出したら普通に返事が来た、というケースは実際にあります。

 附票をたどっても居場所が分からない。そこで初めて、次の2つの制度を検討します。

3 不在者財産管理人という代役

 不在者財産管理人とは、行方不明の方に代わって、その方の財産を管理する人のことです(民法25条)。

 裁判所の説明では、対象は「従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みのない人」。生死は問いません。生きている前提の制度です。

 申立てができるのは利害関係人(配偶者、相続人にあたる人、債権者など)と検察官。申立先は、その方の従来の住所地または居所地の家庭裁判所です。

 大事なのはここから。管理人は選任されただけでは遺産分割に参加できません。家庭裁判所の権限外行為許可を得て、初めて本人に代わって協議に加われます。そして許可の前提として、その方の取り分(法定相続分)が確保されている必要があると運用されています。

 「行方不明だから相続分はゼロで」という分け方は、通りません。

 費用は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手。ただし本人の財産が少ない場合、管理人の報酬などに充てる予納金を申立人が納めることがあります。数十万円になるとの解説もあります。

4 失踪宣告という区切り

 失踪宣告とは、生死不明の方を法律上「死亡したものとみなす」制度です。

 裁判所の基準は2種類。生死が7年間分からない場合の普通失踪と、戦争・船舶の沈没・震災など死亡の原因となる危難に遭い、その危難が去った後1年間生死が分からない場合の危難失踪です。

 宣告が出ると、その方は亡くなったものとして扱われます。お子さんがいれば代襲相続人として、いなければ残りの相続人だけで協議できます。

 費用は収入印紙800円と郵便切手、そして官報公告料5,298円(届出の催告3,359円+失踪宣告1,939円)。

 ただし時間がかかります。申立て後に家庭裁判所の調査があり、公示催告(普通失踪は3か月以上)を経て審判へ。名古屋家庭裁判所の案内では「申立て」から「結果の連絡」までにおよそ6か月を見込んでおり、全体では半年から1年程度を覚悟しておくのが現実的です。

5 2つの制度の比べ方

項目不在者財産管理人失踪宣告
前提生きている扱い死亡とみなす
必要な期間7年待つ必要なし原則7年(危難失踪は1年)
相続分本人の分を確保その方の相続人へ
費用印紙800円+予納金の可能性印紙800円+官報5,298円
その後戻るまで管理が続く手続きが完結する

 急ぐなら不在者財産管理人。区切りをつけたいなら失踪宣告。生死不明期間が7年に満たなければ、選択肢は不在者財産管理人だけです。

6 一番の対策は、遺言書です

 ここまで読んで、重いと感じられたはずです。実際、重いのです。

 そしてこの負担は、残されたご家族が背負います。 申立てをするのも、予納金を用意するのも、半年待つのも、ご家族です。

 遺言書があれば、遺産分割協議そのものが不要になります。協議が不要なら、行方不明の方の代役を立てる必要もありません。あわせて遺言執行者を決めておけば、手続きを進める担当者もそろいます。

 ご家族に連絡の取れない方がいる。それは、遺言書を書く理由として十分すぎるほどの事情です。

 すでに相続が始まっている方も、これから備える方も。どちらの立場でも整理のお手伝いができます。お気軽にご相談ください。

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「行政書士下西照美事務所」

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下西照美

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