自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?

自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらを選ぶ?

 「遺言書は書いたほうがいい、とは聞くけれど…」 「自分で書けばタダなんでしょう? わざわざ公証役場に行く必要あるの?」

 終活のご相談で、必ずと言っていいほど出てくる質問です。

 結論を先に申し上げます。どちらが優れているかではなく、「あなたの家族構成で選ぶ」のが正解です。とくに、お子さんがいないご夫婦、障害のあるお子さんを支えている親御さん、ご家族に行方不明の方や未成年者がいる方。この3つに当てはまるなら、選び方が変わってきます。

 順番に見ていきましょう。

1 まず、2つの遺言書の正体を知る

 要点はひとつ。違いは「誰が書くか」ではなく、「誰が正しさを担保するか」です。

 自筆証書遺言(民法968条)は、ご本人が手書きで作る遺言書。公正証書遺言(民法969条)は、公証人が関与して作る遺言書です。

 自筆証書遺言は、15歳以上のご本人が、全文・日付・氏名を自書して押印すれば、一人で作れます。証人も不要です。 一方の公正証書遺言は、公証人のもとで2名以上の証人が立ち会って作成します。公証人が遺言能力や内容の有効性を確認し、助言もしてくれます。病気などで出向けない場合は、公証人が出張してくれます。

 例えば、便箋に「全財産を妻に相続させる」と書いて署名押印。これだけで自筆証書遺言は成立します。手軽です。でも、その紙が見つからなかったら? 書き損じで無効だったら? ——ここが分かれ道です。

2 自筆証書遺言は「保管制度」とセットで考える

 結論。自筆で書くなら、法務局に預けてください。

 2020年7月から、法務局が自筆証書遺言を預かる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。法務省によれば、原本は遺言者の死亡後50年、画像データは150年保管されます。

 この制度の大きな利点は3つ。

 まず、家庭裁判所の検認が不要になること。検認とは、遺言書の状態を裁判所で確認する手続きです。裁判所の案内では、申立てには遺言者の出生から死亡までの全戸籍、相続人全員の戸籍などが必要。これがなくなるのは大きい。

 次に、法務局の職員が形式面(全文・日付・氏名の自書、押印の有無など)を確認してくれること。ただし内容の相談には応じてもらえません。ここは要注意です。

 そして、通知制度。相続人の誰かが閲覧すると他の相続人全員に通知が届く仕組みと、あらかじめ指定した1名に死亡時に通知が届く仕組みがあります。

 法務省の統計では、この制度の保管申請は累計129,598件(令和8年8月時点)。着実に定着してきています。

 なお2019年の法改正で、財産目録はパソコンで作ってよいことになりました。通帳のコピーや登記事項証明書の添付も可能。ただし各ページに署名押印が必要です。

3 公正証書遺言の強みは「無効になりにくさ」

 結論。確実性を買う制度です。

 日本公証人連合会によれば、令和7年に作成された遺言公正証書は12万3,891件。10年前の平成28年は10万5,350件でしたから、2万件近く増えています。

 費用は公証人手数料令で決まっています。2025年10月1日に約25年ぶりの改正がありました。

財産の価額手数料
50万円超〜100万円以下5,000円
100万円超〜200万円以下7,000円
200万円超〜500万円以下13,000円
500万円超〜1,000万円以下20,000円
1,000万円超〜3,000万円以下26,000円
3,000万円超〜5,000万円以下33,000円
3,000万円超〜1億円以下49,000円

 これに、全体の財産が1億円以下なら「遺言加算」13,000円が上乗せされます。3,000万円の財産なら、26,000円+13,000円=39,000円ほどが目安です。

 なお公証役場外(病院や施設)で作成する場合は、手数料が50%加算されることがあり、公証人の日当(1日2万円、4時間以内なら1万円)と交通費もかかります。

4 どちらを選ぶ? 比較表で整理

項目自筆証書遺言
(保管制度なし)
自筆証書遺言
(保管制度あり)
公正証書遺言
作り方自分ひとりで自分で書いて法務局へ公証人+証人2名
証人不要不要2名必要
費用不要3,900円財産額に応じて
家裁の検認必要不要不要
紛失・改ざんリスクあり法務局が厳重保管公証役場が保管
内容の助言なしなし(形式のみ確認)あり
死亡時の通知なしありなし

5 ケース別・私ならこう勧めます

 ここが本題です。

 子どものいないご夫婦なら、公正証書遺言をお勧めします。相続人が兄弟姉妹や甥・姪になるため、後から「この筆跡は本人のものか」と争われる余地を残したくない。公証人が関与していれば、その争いは起きにくくなります。

 障害のあるお子さんがいる親御さんも、公正証書遺言が安心です。「この子の面倒を見ることを条件に財産を渡す」という負担付遺贈や、遺言執行者の指定など、内容が複雑になりがちだからです。公証人の助言を受けながら作れる意味は大きい。なお、財産を長期に管理する必要があるなら、家族信託との組み合わせも選択肢になります。

 ご家族に行方不明の方や未成年者がいる場合は、遺言書の有無で結果が大きく変わります。遺言がないと遺産分割の話し合いが必要になり、行方不明者には不在者財産管理人、未成年者には特別代理人を家庭裁判所に選んでもらう手続きが要ります。時間も手間もかかる。遺言書で分け方を決めておけば、この手続きを避けられる可能性があります。ここでも確実性の高い公正証書遺言が向いています。

まとめ

 「内容がシンプルで、まずは一歩踏み出したい」なら、法務局の保管制度を使った自筆証書遺言。3,900円で、紛失も検認の心配もなくなります。

 「相続人が複雑」「家族に配慮が必要な人がいる」なら、迷わず公正証書遺言を。

 どちらにせよ、一番よくないのは「そのうち書こう」のまま時間が過ぎることです。遺言書は、判断能力がしっかりしているうちにしか作れません。

 「うちはどちらが向いているのかしら」という段階で構いません。どうぞお気軽にご相談ください。

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「行政書士下西照美事務所」

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下西照美

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