おひとりさまが任意後見で備えるべき5つの対策

おひとりさまが任意後見で備えるべき5つの対策

 「もし認知症になったら、誰がお金を管理してくれるの?」
 「入院の手続きは誰に頼めばいい?」
 「自分が先に逝ったら、障害のある子はどうなるの?」

 終活を考え始めると、こうした不安が浮かびますよね。 頼れる家族がいない方や、家族に頼みにくい事情がある方ならなおさらです。

 その不安に備える仕組みが「任意後見」です。 ただ、契約書を1枚作れば安心、というものではありません。 この記事では、任意後見を「使える備え」にするための5つの対策を順番にお話しします。

1 まず知っておきたい「任意後見」の基本

 任意後見とは、元気なうちに「将来の支援者」を自分で選んでおく制度です。

 もう少し詳しくいうと、判断能力があるうちに「認知症などになったら、この人にこれを任せる」と契約で決めておく仕組みです。契約は公証役場で「公正証書」という公的な書面にします。

 効力が生まれるタイミングも決まっています。判断能力が落ちたあと、家庭裁判所が「任意後見監督人」(任意後見人をチェックする人)を選んだ時点で、契約がスタートします(成年後見・登記制度HP)。

 身近な例で考えてみましょう。 70代で一人暮らしのAさんが、信頼できる専門家と契約したとします。 5年後に認知症と診断されたら、任意後見監督人が選ばれ、そこから専門家が預金の管理や施設の契約を代わりに行います。

 家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」との違いは、次の表のとおりです。

比較項目任意後見法定後見
支援者を選ぶ人自分家庭裁判所
始めるタイミング元気なうちに契約判断能力が落ちてから申立て
任せる内容契約で自由に決められる裁判所が決める

2 対策① 「誰に頼むか」と「予備の人」を決めておく

 最初の対策は人選です。そして、予備の人まで決めておくことが大切です。

 任意後見人は、家族でも友人でも専門家でもかまいません。 ただ、おひとりさまの場合、同世代の友人に頼むと、自分より先に相手が倒れてしまうこともあります。

 ここで法改正のお話です。 2026年6月、成年後見制度を見直す改正法が成立し、6月24日に公布されました。施行は公布から2年6か月以内です(法務省)。

 これまでは、頼んだ人が亡くなったときに「次の人」を用意する仕組みがありませんでした。改正後は、複数の受任者と「契約を発効させる順番」をあらかじめ決められるようになります(改正法概要)。

 「第1候補は姪、ダメなら行政書士」という二段構えができる、ということです。

3 対策② 「何を任せるか」を具体的に書く

 2つ目の対策は、任せる内容を具体的にすることです。

 契約書には「代理権目録」という、任せる仕事のリストを付けます。 ここに書いていないことは、任意後見人は代わりにできません。

 おひとりさまなら、たとえば次のような内容を入れておくと安心です。預貯金の管理と年金の受け取り、介護サービスや施設入所の契約、自宅の売却や賃貸借の解約、医療費や税金の支払いなどです。

 「自宅を売って施設費用にあてたい」と思っているのに、不動産のことが書いていない。そうなると、いざという時に困ってしまいます。

4 対策③ 「元気なうち」の見守りとセットにする

 3つ目の対策は、契約が始まるまでの「空白期間」を埋めることです。

 任意後見には、次の3つの使い方があります。

タイプ内容向いている人
将来型判断能力が落ちてから開始近くに見守ってくれる家族がいる人
移行型元気なうちは見守り・財産管理、その後に任意後見へ移るおひとりさま・子のいない夫婦
即効型契約後すぐに開始すでに判断能力が少し落ちている人

 おひとりさまにおすすめなのは「移行型」です。

 実は、任意後見契約は2025年に19,447件結ばれました。一方、同じ年に契約がスタートした登記は736件です(政府統計)。法務省の調査では、有効な契約のおおよそ12万件のうち、スタートしていたのはわずか3%ほどでした(法務省民事局資料)。 理由の一つは「判断能力が落ちたことに誰も気づかない」ことです。

 定期的な電話や訪問で様子を見てもらう「見守り契約」をセットにしておけば、気づいてもらえない心配が減ります。

 改正では、発効の申立てができる人も広がります。今は親族か受任者に限られていますが、改正後は公正証書で指定しておけば、ケアマネジャーなど生活を知っている人にも申立てを任せられます(改正法概要)。

5 対策④ 費用を「見える化」しておく

 4つ目の対策は、お金の見通しを立てておくことです。

 任意後見には、作るときの費用と、始まってからの費用があります。

費用の種類目安
公正証書の作成手数料13,000円
登記嘱託手数料1,600円
登記手数料(収入印紙)2,600円
任意後見監督人の報酬(財産5,000万円以下)月1〜2万円

 上の3つは2025年10月改定後の公証役場の費用です(日本公証人連合会)。監督人の報酬は家庭裁判所が決め、財産5,000万円以下なら月1〜2万円が目安です(大阪家庭裁判所)。

 月1.5万円なら、10年で約180万円です。 この費用も老後資金の計画に入れておきましょう。

 なお改正後は、監督の必要がないと家庭裁判所がはっきり認めた場合、任意後見監督人を置かずに裁判所が直接監督できるようになります(改正法概要)。費用負担が軽くなる可能性があります。

6 対策⑤ 「亡くなった後」は遺言と死後事務委任で

 最後の対策は、亡くなった後の備えです。

 任意後見は、本人が亡くなると終わります。 葬儀、納骨、家の片付け、各種の解約は、任意後見人の仕事ではありません。

 そこで、次の2つを組み合わせます。

書類役割
死後事務委任契約葬儀・納骨・解約手続きなどを任せる
遺言書財産を誰に渡すかを決める

 遺言は、ご家族に事情がある方ほど大切です。 相続人に行方不明の方や未成年の方がいると、遺産を分ける話し合いのために、裁判所で代わりの人(不在者財産管理人や特別代理人)を選んでもらう必要が出てきます。手間も時間もかかります。遺言があれば、こうした負担をぐっと減らせます。

 障害のあるお子さんがいる「親なき後」が心配な親御さんは、ご自身の任意後見と遺言に加えて、お子さんの支援の仕組みも一緒に考えておきましょう。

まとめ

 任意後見を「使える備え」にする5つの対策を振り返ります。

 1つ目は、予備も含めて人を選ぶこと。2つ目は、任せる内容を具体的に書くこと。3つ目は、見守りとセットにすること。4つ目は、費用を見える化すること。5つ目は、遺言と死後事務委任で亡くなった後まで備えることです。

 改正法の施行前に結んだ任意後見契約にも、原則として改正後のルールが適用される予定です(改正法概要)。 「改正を待ってから」と先延ばしにする必要はありません。 任意後見は、判断能力があるうちにしか結べないからです。

 「自分の場合は何から始めればいい?」と迷ったら、まずは今の状況を一緒に整理してみませんか。 初回のご相談で、あなたに合った備え方をご提案します。どうぞお気軽にご相談ください。

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「行政書士下西照美事務所」

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下西照美

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