
「頼んだ甥と、最近うまくいかない」
「専門家に頼み直したくなった」
「契約したときと、事情が変わってしまった」
任意後見契約は、公証役場で結ぶ正式な契約です。そのため「一度結んだら最後」と思われがちです。
実際には、任意後見契約は途中でやめられます。ただし、やめ方は時期によって大きく変わります。分かれ目になるのは「契約が動き出す前か、後か」です。
1 「解除」と「発効」の意味をおさえましょう
最初に、言葉を2つ確認しましょう。解除は「契約をやめること」、発効は「契約が動き出すこと」です。
解除とは、結んだ契約を途中で終わらせることです。どちらか一方からでも、2人の話し合いで決めても、解除できます。
発効の時期は法律で決まっています。家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだ時点です。任意後見監督人とは、任意後見人の仕事をチェックする人のことです(任意後見契約法第7条第1項第1号)。
例えば、78歳のCさんが甥と契約したとします。Cさんが元気なうちは、契約は「出番待ち」の状態です。85歳で判断力が落ち、任意後見監督人が選ばれた日から、甥は任意後見人として動き始めます。
2 発効前と発効後の違いを表で比べる
発効前は比較的かんたんにやめられます。発効後は、家庭裁判所の許可がないとやめられません。
| 比べる点 | 発効前(監督人が選ばれる前) | 発効後(監督人が選ばれた後) |
|---|---|---|
| やめられる時期 | いつでも | 正当な理由があるときだけ |
| 必要な手続き | 公証人の認証を受けた書面 | 家庭裁判所の許可 |
| 誰がやめられるか | 本人、受任者(頼まれた人)のどちらからでも | 本人、任意後見人 |
この違いは法律に定められています(任意後見契約法第9条)。
発効後に厳しくなるのには、理由があります。この時期の本人は、判断力が落ちています。任意後見人が勝手にやめてしまうと、本人を守る人がいなくなるからです。
3 発効前のやめ方は2通りあります
発効前のやめ方は2つあります。話し合ってやめる「合意解除」と、一方からやめる「一方的な解除」です。必要な手続きが違います。
| やめ方 | 手続き | 効力が生じるとき |
|---|---|---|
| 合意解除(2人で話し合ってやめる) | 合意解除の公正証書を作る、または解除の合意書に公証人の認証を受ける | すぐ |
| 一方的な解除(片方からやめる) | 解除の書面に公証人の認証を受け、相手に内容証明郵便で送る | 通知が相手に届いたとき |
この手続きは、日本公証人連合会が案内しています(日本公証人連合会)。
ここで、「認証」という言葉を説明しておきます。認証とは、公証人が「この書面は確かに本人が作ったものです」と証明することです。手数料は原則1万1,000円です(公証人手数料)。
Cさんの例で考えてみましょう。甥との関係がこじれ、話し合いにも応じてもらえないとします。この場合、Cさんは解除の書面に認証を受けて、甥に内容証明郵便で送ります。甥に届いた日に、契約は終わります。
発効前の解除には、気をつけたい点もあります。新しく任意後見契約を結べるのは、判断力が十分なうちだけです。解除した後に判断力が落ちると、結び直しはできません。その場合は、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見を使うことになります。障害のあるお子さんの親や、おひとりさまは特に、次の支え手を決めてから解除しましょう。
4 発効後は「正当な理由」が必要です
発効後にやめるには、「正当な理由」と「家庭裁判所の許可」の両方が必要です。
正当な理由とは、契約を続けることが難しい、きちんとした事情のことです。「なんとなく気が変わった」という程度では認められません。
正当な理由に当たりそうな場面には、例えば次のようなものがあります。
- 任意後見人が病気になり、仕事を続けられない
- 任意後見人が遠くへ引っ越し、本人に会えなくなった
一方で、任意後見人がお金を使い込んだ場合は別の手続きになります。家庭裁判所は、本人、親族、監督人からの申立てを受けて、任意後見人を辞めさせる(解任する)ことができます(日本公証人連合会)。
5 解除した後の「登記」を忘れずに
契約をやめたら、法務局に「終了の登記」を申請します。登記を残したままにすると、トラブルの元になります。
任意後見契約は、法務局に登記されています。任意後見人の名前や、任せた内容が記録されているのです(日本公証人連合会)。
解除したときの申請先は、東京法務局の後見登録課です。申請には、公証人の認証を受けた解除の書面(原本か、認証のある謄本)が必要です(東京法務局)。終了の登記には、登記手数料はかかりません(法務局)。
なお、法律では、代理権がなくなったことは登記しないと、事情を知らない第三者に主張できないとされています(任意後見契約法第11条)。例えば、解除したのに登記が残っていると、元の任意後見人が銀行で手続きできてしまうおそれがあります。
6 法改正で「一部だけやめる」道も
2026年6月に成立した改正法で、任意後見契約の変更や一部解除のルールがはっきり定められます。施行は、公布から2年6か月以内です(法務省)。
これまでは、「全部やめて結び直す」のが基本でした。改正後は、「不動産の売却だけ外す」といった見直しがしやすくなる見込みです。
ただし、施行までは今のルールで手続きします。
まとめ
任意後見契約は、途中でやめられます。発効前なら公証人の認証を受けた書面で、発効後なら家庭裁判所の許可を得てやめる、という違いがあります。そして、やめた後は登記まで済ませることが大切です。
解除は「終わり」ではありません。次の支え手を決める「始まり」でもあります。契約の見直しや結び直しで迷ったら、お気軽にご相談ください。
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