
〜「夫婦だから全部もらえる」は思い込みです〜
「うちは子供がいないから、相続は簡単でしょう」
「夫が亡くなったら、財産は全部妻のものになるはず」
こう考えている方は少なくありません。 でも実は、子供のいないご夫婦ほど、相続が複雑になりやすいのです。
さらに、ご家族に「未成年の方」「行方不明の方」「障害があり判断が難しい方」がいると、手続きが止まってしまうこともあります。
この記事では、よくある落とし穴と、今からできる対策をやさしく解説します。
1 子供がいないと「夫の兄弟」も相続人になる
先に結論です。子供がいない場合、財産は配偶者だけのものにはなりません。亡くなった方の親、または兄弟姉妹も相続人になります。
まず「法定相続人」という言葉からご説明します。 これは、法律で決められた「財産を受け継ぐ人」のことです。
配偶者(夫や妻)は、いつでも相続人です。 それに加えて、次の順番で「血のつながった家族」が相続人になります。
| 順位 | 一緒に相続人になる人 | 配偶者の取り分 | その人たちの取り分 |
|---|---|---|---|
| 第1順位 | 子(孫) | 2分の1 | 2分の1 |
| 第2順位 | 親(祖父母) | 3分の2 | 3分の1 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(甥・姪) | 4分の3 | 4分の1 |
子供がいなくて、親もすでに亡くなっていれば、「兄弟姉妹」の出番です。 兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子である甥・姪が代わりに相続人になります。これを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」といいます。親の代わりに子が受け継ぐ仕組みです。
例えば、夫の遺産が4,000万円だったとします。
・妻:3,000万円(4分の3)
・夫の兄弟姉妹:合わせて1,000万円(4分の1)
「夫の兄弟とは何十年も会っていない」 そんなご家庭でも、法律上はこうなります。
2 知らないと困る「3つの落とし穴」
結論から言います。遺言書がないと「全員で話し合い」が必要になります。そして、相続人の中に話し合いに参加できない人がいると、手続きが止まってしまいます。
落とし穴① 疎遠な親族と「話し合い」が必要になる
遺言書がないときは、相続人全員で「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」をします。 簡単に言うと「誰が何をもらうか決める話し合い」です。
全員の同意と実印、印鑑証明書がそろわないと、預金の解約も自宅の名義変更もできません。 甥・姪が5人、10人いることも珍しくありません。全国に散らばっていることもあります。
落とし穴② 自宅を手放すことになるかもしれない
遺産が「自宅だけ」で、預金がほとんどない場合を考えてみましょう。 自宅が2,000万円なら、兄弟姉妹の取り分は500万円です。 「お金で払ってほしい」と言われて払えなければ、住み慣れた家を売るしかない……そんなケースもあるのです。
落とし穴③ 話し合いに参加できない相続人がいる
相続人の中に、次のような方がいると、そのままでは話し合いができません。 家庭裁判所で「代わりの人」を選んでもらう必要があります。
| 相続人の状況 | 必要な手続き | どんな人か |
|---|---|---|
| 未成年者 | 特別代理人の選任 | 親と利害がぶつかるとき、子の代わりに話し合いに出る人 |
| 行方不明者 | 不在者財産管理人の選任 | 行方不明の人の財産を守り、話し合いに参加する人 |
| 認知症・知的障害などで判断が難しい方 | 成年後見人の選任 | 本人に代わって財産を管理し、手続きをする人 |
どの手続きにも、申立ての準備と時間がかかります。 特に成年後見人は、一度つくと原則ずっと続きます。 「相続のためだけに」とはいかない点に注意が必要です。
3 いちばんの対策は「遺言書」
結論です。子供のいないご夫婦は、お互いに遺言書を作っておくのがいちばん効果的です。
ここで大切なのが「遺留分(いりゅうぶん)」という言葉です。 これは「遺言があっても、最低限これだけはもらえる」という相続人の権利です。
じつは、兄弟姉妹には遺留分がありません。
つまり「全財産を妻に相続させる」という遺言書があれば、兄弟姉妹は取り分を求めることができないのです。 先ほどの例なら、4,000万円すべてを妻が受け取れます。話し合いも必要ありません。
遺言書には主に2つの方法があります。
| 項目 | 自筆証書遺言(法務局保管) | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作り方 | 自分で書き、法務局に預ける | 公証人(法律の専門家)が作成 |
| 費用 | 保管手数料1通3,900円 | 財産額に応じて数万円〜 |
| 形式ミスの心配 | 自分で注意が必要 | ほぼなし |
| 紛失・改ざん | 法務局保管なら心配なし | 公証役場で保管 |
作るときのポイントは3つです。
①夫婦「それぞれ」が作ること。どちらが先に亡くなるかは分かりません。
②「妻が先に亡くなっていた場合は〇〇に」と次の受取人も書いておくこと。残された方の財産の行き先まで考えておけます。
③配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)の活用です。 2020年4月に始まった制度で、「家の持ち主でなくても、配偶者が亡くなるまで住み続けられる権利」のことです。遺言で設定することもできます。
障害のあるお子さんがいるご家庭へ
「親なき後」が心配なご家庭でも、遺言書は大切です。 遺言がないと、障害のあるお子さんも話し合いに参加しなければなりません。そのために成年後見人が必要になることがあります。 遺言があれば、後見人をつけずに手続きできる場合があります。
さらに「家族信託(かぞくしんたく)」という方法もあります。 信頼できる家族に財産を託して、お子さんのために管理してもらう仕組みです。 遺言・家族信託・成年後見は、組み合わせて使うこともできます。
4 最近の法改正も要チェック
結論です。「相続を放っておく」と不利になる時代になりました。
| 施行時期 | 改正の内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 2023年4月 | 遺産分割の「10年ルール」 | 相続開始(亡くなった日)から10年を過ぎた後の遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(または指定相続分)で行う |
| 2024年4月 | 相続登記の義務化 | 不動産の相続を知った日から3年以内に名義変更。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料 |
| 2025年10月 | 公正証書のデジタル化 | 公正証書の作成手続きがデジタル化され、手数料も見直された |
相続登記の義務化は、それより前に起きた相続も対象です。 「親の代から名義がそのまま」というご自宅も、見直しが必要ですね。
まとめ
子供のいないご夫婦の相続は、配偶者だけで終わりません。 兄弟姉妹や甥・姪が加わり、話し合いが難しくなることもあります。 未成年・行方不明・障害のあるご家族がいれば、なおさらです。
でも、ご安心ください。 「元気なうちに遺言書を作る」。この準備ひとつで、多くの落とし穴は避けられます。
「うちの場合、相続人は誰になるの?」 「遺言書は何から始めればいい?」
そんな疑問からで大丈夫です。 行政書士として、あなたとご家族に合った備えを一緒に考えます。 どうぞお気軽にご相談ください。
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