
「私が死んだあと、この家と預金はどうなるんだろう」
ふと、夜中に不安になることはありませんか。
配偶者に先立たれた。子供はいない。兄弟ももう亡くなった。付き合いがあるのは、隣に住む方と、週2回来てくれるヘルパーさんだけ——。
「まあ、そのうち誰かが何とかしてくれるだろう」
残念ですが、それは起きません。放っておくと、あなたの財産は国のものになります。しかも、面倒な手続きをどなたかに背負わせたうえで。
順を追って見ていきましょう。
1 遺言書がないと、財産は最後に国へ行く
まず全体の流れを押さえてください。財産は次の順番で処理されます。
遺言による遺贈 → 法定相続人による相続 → 特別縁故者への財産分与 → 国庫帰属(国のもの)
遺言書がなく、相続人もいない。すると誰も名乗り出ないまま、国に入ります。
どれくらいの規模でしょうか。日本総研の調査では、2024年に相続人不存在によって国庫帰属となった金銭等は1,292億円。10年前の約3倍で、近年は毎年3割前後のペースで増えています。
背景も示されています。65歳以上で亡くなった方のうち未婚だった人は10万人を超え、10年前の1.7倍。男性は2.2倍です。
「おひとり様」は例外ではなく、もう当たり前の風景になりました。
2 誰も動かないと、手続き自体が始まらない
ここが一番の落とし穴です。相続人がいない場合、財産は自動的に国へ行くのではありません。
相続財産清算人という人が必要になります。相続人がいるかどうかはっきりしないとき、家庭裁判所が選ぶ、財産を整理する人のこと。弁護士や司法書士が選ばれるのが一般的です。令和5年4月の民法改正で、それまでの「相続財産管理人」から名前が変わりました。
選んでもらうには、誰かが家庭裁判所に申し立てる必要があります。申し立てられるのは、債権者や特別縁故者など利害関係のある人、または検察官です。
そして、その費用がなかなか重いのです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入印紙 | 800円 |
| 連絡用の郵便切手 | 数千円程度 |
| 官報公告料 | 5,582円 |
| 予納金 | 数十万円〜100万円程度が目安 |
予納金とは、清算人の報酬や手続き費用に充てるため、申立人が先に預けるお金です。
必要書類も厳しい。ご自身の出生から死亡までの全戸籍、ご両親の全戸籍、亡くなった兄弟姉妹の全戸籍……。何十年前の除籍謄本まで取り寄せることになります。
大家さんや介護施設が、未払い家賃を回収するためにこれをやるでしょうか。実際には「回収するより手間のほうが大きい」と判断され、未収金のまま処理されることが多いと報告されています。
つまり——遺言書がないと、家賃や医療費・介護費を回収できない大家さんや事業者が費用をかぶるか、財産が動かないまま放置されるか。どちらかになりがちです。
3 「お世話になった人に渡す」制度はあるが、遠回り
「私を看てくれた友人に残したい」
その願いを叶える制度はあります。特別縁故者への財産分与(民法958条の2)です。
生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、その他特別の縁故があった人。内縁のパートナーや、献身的に介護してくれたいとこ、友人などが対象になり得ます。
ただし、道のりが長い。
| 段階 | 内容 | 誰が行うか |
|---|---|---|
| 第1段階 | 相続財産清算人の選任を申し立てる | 利害関係人(債権者、遺贈を受けた人、特別縁故者になりたい人など)または検察官 |
| 第2段階 | 相続人を捜す官報公告(6か月以上) | 家庭裁判所(公告料5,582円は申立人が納付) |
| 第3段階 | 債権者・受遺者への公告(2か月以上)と弁済 | 相続財産清算人(弁護士・司法書士など) |
| 第4段階 | 相続人不存在の確定後、3か月以内に分与を申し立てる | 特別縁故者になりたい人(本人) |
完了までおよそ9か月。しかも「第4段階」の3か月は、1日でも過ぎれば申し立てができません。
さらに、必ず全額もらえるわけでもありません。生前の交流が限定的だったと判断され、遺産の一部のみの分与にとどまるケースもあります。金額を決めるのは家庭裁判所です。
遺言書が1枚あれば、この9か月の手続きも、金額の不確実さも避けられたわけです。遺言書は特別縁故者の制度より優先されます。
4 お金より先に困るのは、あなたの体
もうひとつ、目を向けていただきたいことがあります。
厚生労働省の推計では、2023年度に親族などに引き取られず自治体が火葬した方は約4万2千人。同年の死亡者総数157万5936人の2.7%にあたります。
お金の行き先より先に、火葬や納骨、部屋の片づけ、役所への届出——ここで詰まるのです。しかも遺言書は、原則としてこの部分をカバーしません。
5 おひとり様が今から打てる4つの手
やることは4つ。順番に、無理のない範囲で。
| 備え | 中身 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 遺言書 | 誰に財産を渡すかを決める | 自筆+法務局保管で3,900円/公正証書は財産額に応じる |
| 遺言執行者の指定 | 遺言内容を実現する人を決める | 遺言書の中で指定 |
| 任意後見契約 | 判断力が落ちたあとの財産管理・契約を任せる | 公正証書で作成 |
| 死後事務委任契約 | 葬儀・納骨・届出・部屋の片づけを頼む | 内容により異なる |
この4つが揃うと、生きている間と亡くなったあと、両方の穴が埋まります。
とくに遺言執行者。指定しておけば、その方が単独で名義変更や口座解約を進められます。相続人がいないケースでは、ここが手続きの生命線になります。
まとめ
おひとり様の終活で、遺言書は「あったほうがいいもの」ではありません。なければ手続きそのものが始まらない、土台の部分です。
まず1枚の紙に、財産を書き出してみてください。次に、渡したい相手の名前を。それだけで、もう半分は進んでいます。
法務局の保管制度なら3,900円。迷っている時間のほうが、よほど高くつきます。
ご自身に合った組み合わせをどう設計するか、お困りのときは、お気軽にご相談ください。
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