甥や姪に任意後見人を頼むときの伝え方と注意点

甥や姪に任意後見人を頼むときの伝え方と注意点

 「子供がいないから、将来は甥に頼みたい」
 「でも、なんて切り出せばいいんだろう」
 「迷惑だと思われたらどうしよう」

 こんな気持ちで、話を先延ばしにしていませんか。

 甥や姪は、子供のいない方にとって身近で頼れる存在です。 ただ、頼み方を間違えると、相手が重荷に感じたり、ほかの親族とぎくしゃくしたりします。

 この記事では、甥や姪に任意後見人をお願いするときの「伝え方」と「注意点」を順番にお話しします。

1 任意後見人と甥・姪の関係を整理しよう

 甥や姪は、任意後見人に選べます。しかも、実際によく選ばれています。

 任意後見人とは、認知症などで判断が難しくなったときに、あなたの代わりにお金の管理や契約をする人です。元気なうちに自分で選び、公正証書(公証役場で作る公的な書面)で契約します。

 誰でもなれるわけではありません。法律では、未成年者、破産者、裁判所で後見人などを解任されたことのある人、あなたと裁判で争った人とその配偶者・親や子供などは除かれています(任意後見契約法第4条第1項第3号)。

 甥や姪は「三親等」の親族です。契約を始めるときに家庭裁判所へ申立てができる「四親等内の親族」にも入ります(東京法務局)。

 法務省の調査では、任意後見を引き受けた人の約64%が親族でした。そして、約54%の契約が「報酬なし」です(法務省民事局資料)。

 例えば、75歳のBさんご夫婦は、近所に住む40代の姪に頼みました。報酬は月1万円にしました。身近な親族が引き受けるのは、ごく普通のことなんです。

2 伝える前に準備しておく3つのこと

 いきなり「後見人になって」と頼むのはやめておきましょう。相手が安心して判断できる材料をそろえてからにします。

 準備することは3つです。 1つ目は、何を頼みたいか。預金の管理なのか、施設の契約なのか、自宅の売却まで含むのかを書き出します。 2つ目は、いつごろから必要になりそうか。 3つ目は、お金の話です。報酬をいくらにするか、交通費などの実費をどうするかを考えておきます。

 甥や姪は仕事や子育てで忙しい世代です。「どれくらい大変なのか」がわからないと、引き受けるかどうか決められません。

3 甥・姪への上手な伝え方

 ポイントは「押しつけない」「断る余地を残す」「具体的に話す」の3つです。

場面避けたい言い方おすすめの言い方
切り出し「あなたしかいないの」「将来のことで相談したいことがあるの」
お願い「後見人やってね」「もしよければ、考えてもらえないかな」
負担の説明「大したことないから」「こういうことを頼みたいと思っているの」
返事「今決めて」「ご家族とも相談して、ゆっくり考えてね」

 「あなたしかいない」は気持ちとしては本当でも、相手には逃げ場のない言葉に聞こえます。

 おすすめは、お盆やお正月に顔を合わせたとき、軽く話題に出しておくことです。そのうえで、後日あらためて時間をとってもらいます。1回で決めようとしないのがコツです。

 甥や姪の配偶者にも一言伝えておきましょう。家族の協力がないと続けにくい役割だからです。

4 頼むときの注意点

 注意したいのは「負担」「お金」「ほかの親族」「予備の人」「始め方」の5つです。

注意点内容対策
負担の中身財産の管理や裁判所への報告が続く仕事の内容を契約書に具体的に書く
報酬無報酬だと不満がたまりやすい金額か「なし」かをはっきり決める
ほかの親族「なぜあの子だけ」と不公平感が出る親族にも事前に方針を伝える
予備の人甥・姪が病気や転勤で動けなくなる第2候補や専門家を決めておく
始め方申立てが必要なことを知らない契約のときに手順を一緒に確認する

 特に気をつけたいのが「始め方」です。任意後見は、家庭裁判所が任意後見監督人(後見人をチェックする人)を選んで、はじめてスタートします。

 ところが、法務省の調査では、親族の受任者の約32%が「判断能力が落ちたらすぐ申立てをする必要がある」ことを知りませんでした(法務省民事局資料)。

 任意後見監督人の報酬も伝えておきましょう。管理する財産が5,000万円以下なら、月1〜2万円程度が目安です(大阪家庭裁判所)。この報酬はあなたの財産から払います。甥や姪の持ち出しにはなりません。そこも安心材料として伝えてあげてください。

 ここで法改正のお話をしておきます。2026年6月に成年後見制度を見直す改正法が成立しました。施行は公布日(6月24日)から2年6か月以内です(法務省)。

 改正後は、受任者を複数決めて、契約を始める順番まで指定できるようになります。また、監督の必要がないと家庭裁判所が認めれば、任意後見監督人を置かずに裁判所が直接監督する道も開かれます(改正法概要)。

 「第1候補は姪、無理なら甥」と決めておけば、1人に負担が集中しないよう工夫できます。

5 相続とセットで考えるのが安心

 任意後見と遺言は、セットで準備しておきましょう。

 任意後見は、あなたが亡くなった時点で終わります。そのあと財産を誰がもらうかは、まったく別の問題です。

 甥や姪が相続人になるのは、あなたに子供も親もいなくて、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合です。しかも、甥や姪には遺留分(最低限もらえる取り分)がありません(民法1042条)。

 例えば、兄弟が健在だと、お世話をした姪には何も残らないこともあります。「面倒を見てくれた姪に残したい」なら、遺言が欠かせません。

 相続人の中に行方がわからない人や未成年の人がいると、遺産の分け方の話し合いが進みにくくなります。遺言があれば、甥や姪の手続きの負担もぐっと軽くなります。

まとめ

 甥や姪に任意後見人を頼むのは、自然で現実的な選択です。ただし、気持ちだけで頼むと、相手の重荷になってしまいます。

 何を頼むかを整理して、断る余地を残してお願いする。報酬や始め方を一緒に確認する。予備の人と遺言も用意しておく。

 この順番で進めれば、あなたも甥・姪も安心して将来を迎えられます。

 「うちの場合はどう切り出せばいい?」「契約書に何を書けばいい?」と迷ったら、まずは状況の整理からお手伝いします。 甥や姪の方とご一緒のご相談も大歓迎です。どうぞお気軽にご相談ください。

      ↓

「行政書士下西照美事務所」

この記事を書いた人 Wrote this article

下西照美

下西照美